『絶食男子、解禁』
とある日の二十時過ぎ。
鮎川から『今から自宅に行ってもいい?』というメールが届いた。
何事かと思ったら、趣味の習い事である料理教室で懐石弁当を作ったという。
「ごめんね、夜遅くに」
「いや、それは構わないんだけど」
「これ、よかったら食べて」
「いいの?……貰って」
「あげれる人いないし、私は教室で食べて来たから」
「……そうなんだ」
「じゃあ、私はこれで」
「え、もう帰るの?」
「え……?」
「珈琲でよければ淹れるけど」
「……」
「とりあえず、上がって」
答えに困る彼女を無理やり家に入れた。
だって、見るからに豪華な重箱が風呂敷に包まれているものを手渡され、さすがに『はい、さようなら』とは言えない。
作る手間もここへ来る時間もかかったのに。
リビングに通して淹れたての珈琲を手渡す。
「前来た時も思ったけど、男性の部屋にしては綺麗だよね」
「あー、週一でハウスキーピング入ってるから」
「え?」
「自宅でも仕事すること多いし、関連書籍やら判例のファイルやら結構散らかるんだよね。鮎川が来たタイミングはたまたま掃除された後だってだけで、入る前だと結構酷いよ」
「……そうなんだ」
「ん」
「今も仕事してたの?」
鮎川がダイニングテーブルの上に広げられた書類を指差した。
「あれは仕事じゃなくて、勉強みたいなもん?都道府県別に条例とか改正されるから、定期的に情報をアプデしてるところ」
「それ、仕事じゃない」
「そうか?」
「やっぱり弁護士って凄いんだね」
別に大したことじゃないと思うが、褒められると何となく照れる。
「鮎川だって、資格の勉強とか習い事とかフルにしてんじゃん」
「私のは下手の横好きだから」
「そんなことねーだろ」