『絶食男子、解禁』
「楢崎には言ってないことがある」
「ん?」
「元彼と別れた本当の理由」
俺の質問が悪かったのか。
鮎川が突然悲しそうな顔をしながら、ポツリポツリと言葉を紡ぎ始めた。
別れるために他の男にあてがったと聞かされていたが、その話には続きがあった。
元々彼女の体が目的だったのと、自分の将来に使える駒を育てていたようなものだと。
彼の本性を知って、別れを決意したという。
いや、他の男にあてがわれた時点で普通別れるだろ。
親しい友人に恋人を紹介するならまだしも、親しくもない人間に彼女を紹介したいと思うだろうか?
相当交友関係が緩いか、自慢したがりの自己中野郎としか思えない。
それなのに鮎川は、『元々モテる人だったから、遊ばれることも覚悟の上で付き合い始めた』と口にした。
そんなタイプには見えないのに。
それほどまでに自分に自信がなかったのか。
遊ばれてもいいと思えるほど好きだったのか。
「もう、楢崎に隠してることは何一つないよ」
自嘲気味に苦笑した彼女は、何かを吹っ切ったような清々しい表情になった。
「それで、有効利用できる相手が欲しかっただとか、理想を築く手助けをしたって件に繋がってるわけね」
「……え?」
「鮎川が言ったんじゃん、俺に」
「………あ」
「ただ別れるのを目的とした行為だったとしても、いまいち話の辻褄が合ってないように思ったから」
「……さすが、弁護士さん。鋭い推察力だね」
「普通だよ。ぼそっと呟いた言葉の中にも、ちゃんと感情や状況を示す材料は幾らでもあるから」
弁護士の職業柄か?
いや、単に俺が口下手すぎて、聞き役が得意ってだけでしょ。
それが仇となって、言うタイミングを逃すことも多いけれど。