『絶食男子、解禁』

「俺の上司が言ってたけど、『イイ女ほど、深い傷を抱えてる』って」
「えっ、…何それ」
「心の痛みを知ってて、沢山の涙を流した分だけ、他人の心を浄化できるオアシスになれるらしい」
「……何だか、深いね」
「だから、鮎川はイイ女ってことだよ」
「っ……、お世辞だと分かってても嬉しいもんだね」
「世辞じゃねーって」

過去の記憶を思い出すだけで辛いだろうに。
鮎川は俺と違って素直すぎる。

俺だったら、何で……どうして……って、理由を必死になって探してしまう。
自己解決する能力が、彼女より劣っているのか。
到底自分では同じ結果に辿り着けそうにない。

「鮎川は強いな」
「……そんなことないよ」
「思い出したくないこと、言わせてごめんな」
「ううん。……じゃあ、そろそろ帰るね」
「駅まで送るよ」
「え、大丈夫だよ」
「……じゃあ、下にタクシー呼ぶから、少し待って」
「ホントに大丈夫なのに…」

二十一時を回っていて、駅からさほど離れていないとは言え、さすがに夜道に女性を放り出すみたいなこと、できるわけがない。

「じゃあ、泊まってく?」
「……へ?」
「冗談。今タクシー呼んだから、五分後くらいに下に行こう」

出張の朝とかによく使うタクシー会社を手配した。
常連というのもあって、すぐに来てくれる。

「そうだ。さっき話した上司が、今度ご飯でも一緒にって言ってるんだけど、無理かな」
「えっ、それって品定め的な?」
「違う違う。俺が口説き落とした子(・・・・・・・・)が、気になるらしい」
「あーん~……いいよ」
「悪いな」
「イイ女を演じないとね」

自然と視線が交わる。

「素で十分、イイ女だって」
「はいはい、そういうことにしとくよ」

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