『絶食男子、解禁』


クライアント先で打ち合わせを終え、自宅へと向かおうした、その時。

『元彼が会社近くで待ち伏せしてて、人目もあるので仕方なく彼の車に乗りました』
『話があるというので、話だけして来ます』

おいおいおい、どういうこと?
元彼って、あの男だろ。
それも、待ち伏せって……ガチで相当ヤバい案件だって。

『スマホの電源切るなよ』

同じ機種のスマホという利点を生かし、予めインストールされている位置情報を確認できる機能で彼女の場所を確認する。
同期会で度々位置情報を共有するのに使っていて、それをふと思い出したのだ。


一方的に酷い仕打ちをして振った相手を、再び振り回そうとしているのか。
数年ぶりに再会した元恋人が、ますます美人になって惜しくなったのか。

理由はどうであれ、紳士的な男だとは到底思えない。

駅前のタクシーに乗り込み、GPSの情報を頼りに向かって貰う。

十八時過ぎの都内はどこも渋滞していて、中々思うように進まない。
気ばかりが焦り、スマホを握る手に汗が滲む。


豊洲?
WING本社は台東区上野にあるが、彼女の自宅は上野から北に位置する西日暮里。
だが、GPSで捉えた位置は、上野から車で十キロほど南に位置している豊洲駅の少し南。
先日あったフェス会場に程近い場所だ。

行きつけの旨い店でもあるのか。
それとも、再会した場所に何か意図があるのか。

暫くして完全に動きが止まったことを確認し、タクシードライバーにそこへと向かって貰うことにした。

何もなければいいのだが……。

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