『絶食男子、解禁』


元彼が運転する車は、彼と再会したフェス会場に程近い公園の駐車場で停車した。
豊洲市場を取り囲むようにある公園で、東京湾が一望でき、レインボーブリッジや幻想的に彩られるネオンが絶景の場所。
その昔、付き合っていた時に何度か連れて来て貰った場所だ。

「ここなら、人目も気にせずに話せるだろ」

密室の車内がどうしても嫌で、『夜風に当たりたい』と言って車外に出た。
海風に当たりながら、彼との距離を取る。

「そんな警戒しなくても…」
「本当なら、こうやって話すのも嫌なの。……分かるでしょ?」

私にした仕打ちを考えたら、この場にいることさえあり得ないのに。

「ごめんな。……まずは、謝りたかった」
「……謝って済む問題じゃないし、今さら謝って貰っても何も変わらないから」
「信じて貰えないかもしれないけど、俺は別れたくなかったんだ」
「……はぁ?」
「大学入学当時から、卒業後はアナウンサーになることだけ目指してたのはつぐみも知ってるだろ。その為に雑誌のモデルしたり、ケーブルテレビの地方ロケに出たり。やれることは何でもやったつもりだ」
「だから?それで私を駒に、局アナの先輩にコネを作りたかったんでしょ?」
「どういう意味?」
「自分が言ったんじゃない。私、聞いたんだから。あのホテルでの一件の数日後に、教室で友達に『最初からヤる目的だった』とか『利用価値は十分にあった』って」
「……え、ちょっと待って」
「『身の回りの整理がしたい』だの、『中田先輩の伝手を作れた』って言ったのは透だよっ!私は今でもあの日の透の言葉が頭から離れないのにっ……」
「……ごめん。それ、本心じゃないんだ」
「離してっ!!触らないでッ」

ずっと吐き出せなかった言葉が、涙と一緒に溢れ出した。

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