『絶食男子、解禁』
駅のホームで電車を待つ間、気持ちを落ち着かせている鮎川を背後に隠す。
俺にはこれくらいしかしてやれない。
それにしても、部外者の俺ですら怒りで気が狂いそうだってのに。
鮎川は必死に全てを受け容れて、人生をリセットしようとしている。
現実を知ったところで、気持ちなんてそう簡単に切り替わるわけないのに。
「もう大丈夫だから」
「……ん」
鮎川は強くて、惚れ惚れするほど潔い。
怒り散らして泣き喚いて、行き場のない感情を爆発させてもおかしくないのに。
たった数分涙を流しただけで、平静を取り戻した。
鮎川を見ていると、不思議と俺も前を向けそうな気がして来る。
どうしてだろう。
彼女の素直で健気な性格に絆されたのか。
カラカラに干上がった心の大地が、少しずつ潤いを取り戻しつつある気がする。
*
「今日は本当に助かりました。…ありがとう」
「あいつが何かして来たら、直ぐに言えよ?」
「……ん」
「ホントだぞ?」
「…ん」
「社交辞令な返答は求めてないからな?」
「分かったって」
「……じゃあ、またな」
「おやすみ」
「おぅ、…おやすみ」
鮎川をマンションの下まで送り届けて、踵を返す。
マンションに到着する頃にはすっかりいつもの鮎川に戻っていたが、今夜一人で大丈夫だろうか?
一人になった時に、急に虚しさのような感情が襲って来るものだ。
駅の改札口まで来て、やっぱりもう少しそばにいるべきだと思い、ダッシュで引き返した。
ピンポーン。
チャイムを鳴らしても返答がない。
お風呂にでも入ってるのだろうか?
ピンポーン。
再びチャイムを鳴らす。