『絶食男子、解禁』
初めて自宅に招き入れたのに、彼の態度があまりにも自然で、思わず笑みが零れてしまった。
「何だよ」
「うち来るの初めて……だよね?」
「……そうだけど?」
「自分の家みたいだね」
「……悪い」
「いや、嫌味で言ってるんじゃなくて、なんか不思議な感覚というか。すっごい馴染んでるから」
さっき泣いていたのが嘘のよう。
彼の姿を見た途端に安心しきって、涙がピタッと止まったようだ。
「お水?お茶?……それとも、ビールにする?」
「……うーん、じゃあ、ビール」
「ビールね」
ネクタイを緩め、Yシャツのボタンを外し、襟元をパタパタと翻す楢崎。
そんな彼に缶ビールを差し出し、冷蔵庫から作り置きの副菜を幾つか出す。
「この前貰った重箱のやつ、めちゃくちゃ旨かった」
「うん、メールで聞いてるよ?」
「あーそうだったな」
彼と食事をするのも、酒を酌み交わすのも初めてじゃない。
だけど、私の家での宅飲みという設定が初めてだからか。
彼は少し緊張しているみたい。
取り皿につまみを取り分け、それを彼の前に置く。
「ごめん、酷い顔だと思うから、洗って来ていい?」
「あぁ、お前んちなんだから、ご自由に」
彼をリビングに残し、洗面所へと。
鏡に映った自分は、かなり酷い顔をしていた。
終始俯き加減で歩いて来たから、あまり人目には晒してないと思うけれど。
楢崎にはバッチリと見られてしまった。
メイクを落とし、再びメイクを施すか、悩みに悩む。
二十七年生きて来て、一番秘密にしておきたかったこと全てを彼は知っている。
今さら取り繕っても滑稽な姿にしか思えない。