『絶食男子、解禁』
メイクを落とした鮎川は陶器のような白い肌が目を惹き、いつもは凛としている感じに見えるのに、すっぴんは少しあどけなさを感じる。
「あまりジロジロ見ないでよ」
「ノーメイクでも美人は美人なんだな」
「もう酔ってるの?」
「世辞じゃねーよ」
「あーはいはい。他に何か、おつまみ作ろうか?」
「こんだけあれば、充分だろ」
私を気遣って戻って来てくれた彼。
『恋人』だなんて、建前上なのに。
これじゃあ、本当の恋人だと勘違いしそう。
「あいつ、何か仕掛けて来るかな」
「その時はその時だよ。こっちだって黙ってないっていう姿勢見せるつもり」
「例えば?」
「某局のイケメンアナアンサーN氏、学生時代は悪行三昧……とか?」
「……ハハハッ、それいいな」
スポーツ新聞の一面トップを読み上げるみたいに、空中に手でダンダンダンッとジェスチャーしてみせた。
「でも本当に何かして来たら、その時は俺が、二度と手出しできないようにしてやるから安心しろ」
「……うん、頼りにしてる」
ぐびぐびっと喉を鳴らしながらビールを飲む楢崎。
開かれた襟元にある喉仏が上下し、いつもより色気を感じる。
「鮎川とはフェアでいたいから」
「……ん」
手元のビールに視線を落としたまま、彼は不意に深呼吸をした。
「昔付き合ってた彼女はさ、……俺の兄貴のことが好きで。最初から、俺なんて眼中になくて。兄貴に近づくために俺の彼女になった人だったんだ」
「……え」
「そんなこと俺は全く知らなくて。見た目が結構可愛い感じの人だったんだけど、俺の友達とかも彼女のこと結構好きなやつ多くて。告られた時、ちょっとした優越感みたいな、今思えばガキだったなぁとか思えるんだけど。あの時はそれが素直に嬉しくて」