『絶食男子、解禁』


初めてあの出来事を口にした。
誰にも言えず、ずっと心の奥底に仕舞い込んでいた感情も引き出して。
言葉を選びつつ、鮎川に分かるようにゆっくりと話す。

「当時、兄貴には彼女がいて、俺と付き合いながら、ずっと兄貴の彼女のポストが空くのを待ってたみたいで」
「…何それ」
「『自信がないから』って、兄貴はもちろんのこと、両親にも会えないってずっと言ってて。実家暮らしだったから、彼女を自宅に呼ぶとかもできなかったし。どこかに出掛けるか、彼女の家か、みたいな関係が続いてたんだけど」
「……ん」
「二年くらい経ったある日突然、『子供ができたから結婚するね』って言われたんだよね」
「え…?」
「大学三年の時に司法試験受かって、ちょうど司法修習で忙しくしてた時期で、彼女とはそういう関係はずっと無かったから」
「……」
「俺が知らない間に、兄貴とデキてて」
「ッ?!」
「聞かされた時には妊娠三か月になってて、俺の両親にもちゃっかり挨拶とか済ませてた」
「酷い…」
「強制終了っていうの?……俺の意思とは関係なく、彼女は兄貴の嫁になるからと、戦力外通告言い渡されたっつーか」
「……お兄さんはそのこと、知ってるの?」
「いや、知らないと思う。彼女ができて、子供ができて、結婚するってすげぇ嬉しそうにしてたし」
「……っ」
「両親にとったら初孫だし、美人な嫁だし、兄貴のこと一途だし。文句のつけようがないって感じだった」
「じゃあその彼女が、楢崎の義姉になったってこと?」
「ん」
「今もお兄さんは幸せそう?」
「……あぁ。先々月、三人目ができたって連絡して来たから」
「っっ……」

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