『絶食男子、解禁』

料理の腕がいいのは知ってる。
プロ顔負けなくらい凝ってる料理も作れるし、趣味の域をとうに通り越してる。

「毎日和食ってわけじゃないよ?」
「…そういう意味じゃなくて」
「え?」
「いや、何でもない」

たぶん、これが素だ。
料理や勉強に打ち込むことで、元彼のことを払拭しようと努力して来たのだろう。
だから、彼女にとったらこれが当たり前。

「どれもすげぇ旨い」
「……口に合うようでよかった」

ほんの少し頬を赤らめ、味噌汁を啜る彼女。
既にメイクも施していて、いつもの鮎川だ。

「すっぴんの鮎川、可愛かったのに」
「っ…」
「まっ、この朝ご飯も、彼氏の特権だよな」
「っ……何よ、今さら」
「冗談抜きで、こんな朝ご飯毎日食べられたら、幸せすぎんだろ」
「……そう?」
「ん」
「……じゃあ、また泊まりにくれば?ご飯くらいいつでも作るよ」

え……。
そういう意味じゃなくて。
夕食でもいいし、休みの日の昼飯でもいいんだけど。
『お泊り許可』をそんな簡単に出しちゃダメだろ。
俺だって一応、男だし。
建前上の『彼氏』だったとしても。

「そういうこと言うと、俺、本気にするよ?」
「ん?……食べたいものあるなら、リクエストしてくれていいからね」

いや、そこじゃねー。
え、まさか、天然?

「このアジ、当たりだね♪脂が乗ってて美味しい」

何だろう。
こういう無邪気なところ、嫌いじゃない。

会社にいる時は近寄りがたい雰囲気を出してるのに。
プライベートの彼女は、素直で可愛らしい女性だ。

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