『絶食男子、解禁』

お風呂から出て、髪を乾かしていると、洗面台の棚に置かれている黒い物体が気になったらしい。

「あゆちゃん、…かれしがいるの?」
「かっ……、たっくん、彼氏なんて言葉知ってるんだね」
「しってるよ~。たんぽぽぐみのりなちゃんのかれしはさくらぐみのこうくんだよ。それに、まなせんせいのかれしは、となりのおてらのおぼうさんなんだよ?」
「そうなんだぁ」

園念寺というお寺の敷地内にある保育園。
仏教の教えに基づいた保育指導の園で、毎日座禅を組む時間があるという。

「たっくんは好きな子いるの?」
「ぼくのすきなひとは、あゆちゃんだよ♪」
「アハハッ、そうだったね」

生まれた時から見ていることもあって、『あゆちゃんとけっこんする』とずっと言っている。

「ご飯食べたら、ママにお電話しようか」
「うん!」



ピンポーン。

「あゆちゃん、だれかきたよ?」
「そうみたいだね」

たっくんと夕食をしていると、来訪者を知らせるチャイムが鳴った。

「あれ、楢崎どうしたの?」
「クライアントから色々貰ったからお裾分けしに来た」
「そうなんだ、ちょっと待ってね」

モニター付きインターホンに映し出されたのはYシャツ姿の楢崎。
慌てて玄関の鍵を開けに行くと、私を追ってたっくんも玄関へとやって来た。

「いらっしゃい」
「んっ?……その子は?」
「前に話した、前島課長の息子さんで辰希くん」
「あーこの子が。初めまして、お姉ちゃんの仕事仲間の楢崎です」
「……あゆちゃんはぼくのかのじょだから、おにいちゃんにはあげないよ?」
「へ?………ハハハッ、先制攻撃喰らった」
「ごめんね、楢崎」

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