『絶食男子、解禁』


「おはよ」
「朝ご飯できてるよ」

寝起きの楢崎が家の中にいることにもすっかり慣れた。
少し伸びかかっている髭姿も、寝癖がついてる髪も。
大きく口を開けて欠伸をする姿も。

「虫歯はなさそうだね」
「…はっ?」

完全に安心しきってるのか、無防備な欠伸姿が微笑ましい。
大きな口開けていたから、ついつい口腔内チェックをしてしまった。

「俺とキスしても、虫歯にはならないよ?」
「ッ?!」

冗談で言った言葉を軽く打ち返して来た。

「私とキスしても、虫歯にはならないよ」
「えっ、あゆちゃん、このおにいちゃんとちゅーするの?!」
「えっ?」
「あゆちゃんはぼくのおよめさんになるんだから、ぼくいがいのひととはしちゃだめなんだよ?」
「っ……はいはい、そうだったね」

まだ寝ていると思っていたたっくんが起きて来たようだ。

「何だ辰希、嫉妬か?」
「しっとってなーに?」
「俺にお姉ちゃん取られそうで、嫌だってこと」
「……うん。あゆちゃんはぼくとけっこんするんだもんっ!」
「へぇ~。辰希が俺の歳になる頃には、お姉ちゃん、おばあちゃんになるぞ」
「あゆちゃんはおばあちゃんにならないもんっ!」
「ちょっと楢崎、子供相手に…」
「昨日、先制攻撃して来たのはコイツの方だろ」
「だからって…」
「あゆちゃん…」

たっくんが今にも泣きそうじゃない。
ホント大人げないんだから。

会社ではクールで何事にも動じない感じなのに。
素の彼は意外に子供っぽいところがある。

「よーし、辰希、顔洗いに行くぞ」
「しょーがないなぁ、つきあってやるよ」
「フッ、生意気な奴だな」

似た者同士でなんか微笑ましい。
結婚して子供が生まれたら、こういう日常があるのかな。

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