『絶食男子、解禁』
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翌週の月曜日。
月次処理の締め作業をしていると。

「なんか、楢崎くんにすっかりお世話になったんだって?」
「……お世話というか、兄弟みたいな感じでしたけど」
「辰希が『おにいちゃん、おにいちゃん』って、ずっと言ってる」
「カリスマ性がありますからね、彼」
「なんだかんだ言って、上手くいってるみたいね」
「……そうですね」

楢崎との関係は正直言うと、曖昧だけれど。
彼と一緒にいても全然苦じゃない。

元彼と別れ、もう二度と男性と共に過ごすことはないと思っていたのに。
今は楢崎と朝ご飯を食べるのも楽しみの一つだ。



「鮎川さん、すみません」
「大丈夫ですよ。もう時間なので、上がって下さい」
「本当に申し訳ありませんっ」

派遣社員の山口さんが平謝りする。
売掛の伝票処理が終わってないのに、月次更新の締め作業を行ってしまい、現在パソコン内のデータの巻き戻し(復旧)作業を行っている。
データ読み込みの時間がかかり、パソコンが何もできない状態に至っている。

データ復旧作業が完了しないと日次の締め作業もできない状態。
既に十八時半を回っていて、派遣社員は残業ができないのに、責任を感じて帰りづらいのだろう。

「山口さん、本当に大丈夫なので上がって下さい」
「……申し訳ありません」
「そんな何度も謝らなくて大丈夫です。私なんて、何度もこれやらかしてるので」
「鮎ちゃん、ごめーん。資材部の立替金の一覧ファイルってどこ~?」
「課長~、目の前にある黄色いファイルがそれですよ」
「すみません、居てもお仕事の邪魔になると思うので、お先に失礼します」
「お疲れさまでした」

月次回復処理をしている間も、仕事がないわけじゃない。
月末月初は経理部にとって戦場のようなもの。
食事をとる間さえ惜しいと思えるほどだ。

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