『絶食男子、解禁』


「お疲れ。一週間で一気にやつれたな」
「クタクタだよ~三キロ減ったもん」
「マジで?」
「ランチする間もないし、帰宅しても疲れきって作る気になれなくて」
「重症だな」

月末月初は忙殺されるからと、会うのを控えていた。
久しぶりに会った鮎川はやつれきっていて、今にも倒れそうな感じ。

「今日は好きなだけ食べろ」
「え、楢崎の奢り?」
「あぁ、幾らでも食っていいぞ」

外食する時は何故かいつも割り勘。
『同期』という関係性から建前上の『恋人』に発展しても、基本情報は上書きされていない。
俺の方が所得が多いはずなのに。

居酒屋『紋』。
会社から近くて個室もあり、料理が旨くて、俺らの行きつけ。

ビールで乾杯すると、すかさず鮎川が料理を取り分けてくれる。
同期会の時もそうだけど、本当に気が利く人だ。

「そう言えば、たっくんが楢崎のこと好きになったみたいだよ」
「は?」
「課長にどんな仕事してる人?って聞いたみたいで、楢崎の仕事のこと教えたらしい。そしたら、『弁護士になる』って言い出したんだって。すっかり懐かれたね」

いや、ただ単に俺を牽制して、同じ土俵に立ちたいだけだろ。
素直っつーか、かわいいやつだな。

「俺が、『弁護士ならお姉ちゃんを守れるから』って言ったからだと思う」
「そんなこと言ったの?」
「『ぼくがあゆちゃんをまもるから!』って、うるせーから」
「大人げなーい」
「いいだろ、別に」

鮎川の家に泊まった翌日。
朝食後、鮎川が家事をしている間に辰希と近くの公園に行った。
その時に『あゆちゃん、あゆちゃん』煩いから、つい。

「辰希とは風呂も一緒に入るし、寝るのも一緒じゃん」
「は?」

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