『絶食男子、解禁』
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炎熱した八月の朝。
有給休暇を取っている私は、いつもと違うホームから電車に乗り込む。
一年ぶりに早稲田大学のキャンパスに足を踏み入れた。

平日に行われる税理士試験。
年に一度しかなく、受験科目別に日時が割り振られている。
試験会場は全国で十数か所しかなく、事前に願書を提出する際に希望の試験会場を記入できるが、希望が通らないこともある。
だから、都心に住んでいるのに地方の試験会場になることもあるし、地方の人が東京の試験会場になることもある。
しかも、先着順なため、定員オーバーで受験できないこともあるのだ。

緊張した面持ちで、少し早めに試験会場に到着した私は、鞄から法人税法のテキストを取り出しおさらいする。

毎年、月初の仕事に忙殺された直後にある税理士試験。
正直なところ、あと一週間くらいあとだったら完璧に準備できるのに。
弱音を吐いたところで何も変わらない。

そもそも税理関連の仕事をしている人なら、この時期は誰でも多忙なはず。
恨むべきは、国税庁の職員によるスケジューリングだろう。

「おはようございます。朝から暑いですね~。今から冷房しますので、試験頑張って下さいね」
「……ありがとうございます」

試験会場を担当する職員の方が、開け放たれた窓を閉め、エアコンのスイッチを入れてくれた。

今年合格しなくても、今まで合格した他の科目は消滅しない。
だから、残りの一科目に合格すればいいだけなんだけど。
今年がダメなら来年、来年がダメなら再来年…。
そんなゆるゆるの心構えで受験しているわけじゃない。

一発で合格するために、時間のある限り努力して来た。
だから、この法人税法も他の科目同様、一発で合格してみせる。

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