『絶食男子、解禁』
日常の危険性

肌を撫でるさらりとした初秋の風が心地いい朝。
通勤途中でスマホがブブブッと震えた。

『急遽、昨日から仕事で京都に来てる。お土産何がいい?』

朝一のメールは、急な出張を知らせるメールが殆ど。
しかも、毎回出張の度に買って来なくていいって言ってるのに、彼は必ずお土産を買って来てくれる。
それがほんの少しくすぐったくて。

一カ月ほど前に彼から正式な交際の申し出を受けた。
表面上の関係性をリセットして、正真正銘の恋人関係になりたいからと。
けれど、私はその申し出を保留にして貰っている。

ここ数か月色んなことがありすぎて、軽いショック症状というか。
単に『恋愛モード』を刷り込まれている気がして。
時間が経てば、これが錯覚だったと思える気がして、どうしても色よい返事ができずにいる。

彼からの申し出は勿体ないほど有難い。
あんな素敵な人は滅多にいないし、彼の胸に飛び込んだら、きっと幸せになれるだろう。

ただ少し気になるのは、あまりにも深い傷を負った彼をこの先ずっと癒し続けられるのか?という不安。

彼のお兄さんが幸せでいる一方、彼はこの先もずっと心に何らかの負荷を感じて生きていくだろう。
私はそんな彼を『愛情』という毛布で包み込んであげれるのだろうか。

今は自分の傷を癒すだけで手一杯だ。
ご飯を作ったり、お酒の飲み友はできても、心の拠り所になれるほど心に余裕が無い。


『抹茶のシフォンが食べたいな』

会社では冷徹王子と言われるくらい言動に鋭さがあるけれど、私には極甘王子だ。
お土産だって指定しないと、あれもこれも買って来るんだもの。

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