麗華様は悪役令嬢?いいえ、財閥御曹司の最愛です!
「麗華?」
幻聴だと思った。ここにいるはずのない人だと思ったから。
しかし、肩を叩かれ顔を上げると、目の前に会いたかったその人が立っていた。
「麗華! こんなに冷えて! いつからここにいたんだ!?」
「……正臣さん……」
仕事中はきっちりと整えてある髪はボサボサで、目の下のクマがすごい。彼の手も十分冷えていて、気のせいか瞳が潤んでいる。そんな彼を目視できたのは一瞬で、ぎゅっと抱きしめられた。力強い抱擁に、私の涙腺も崩壊していく。
「……探したよ」
「っ。ご、ごめんなさい……」
「こんなとこまで。一人で。何かあったらって、心配した」
「だってッ……」
身体を突き放そうとしたが、逃すまいとさらにきつく抱きしめられる。
彼の息遣いから、彼が泣いている気がした。
「正臣さん?」
「西国結奈は関係ない。彼女の父親とウェディング事業の話をしていただけだ。少し前から麗華と俺の式の演出について相談しているんだ。麗華に結婚を拒否されるのが怖くて、言い出せなかった」
「え……?」
「同棲までやっと漕ぎ着けたんだ! 麗華を名実ともに俺のものにしたかった!」
正臣さんが泣きながら告白するその言葉たちは、耳を疑う内容で、私は混乱していく。でも、湧き上がる歓喜が止められない。
「麗華が婚約破棄したいなんて言い出すから。逃したくないって焦って。黙って結婚式の用意までしていた。もう婚姻届も用意してあるんだ! でも、麗華は……、俺のことを好いてくれてるのか、分からなかったから」
「……でも、正臣さん、西國さんに笑いかけてた」
「笑った記憶はないけど。……あの子が『私にもチャンスはありますか』って聞いてきたから、『麗華一筋ですから』って答えた時かな。麗華のことを思い出したから、笑ったのかもしれない。……もう他の女性には笑いかけないようにするし、一瞬でも他の女性と二人きりにならないようにする。だから戻ってきてほしい」
社長としては絶対に不可能であろう条件を出してきて、秘書として思わず動揺する。
リゾートホテルグループの社長だ。接待先もさまざま、女性だって当然いるのに無理に決まっている。でも私が頷くまで離さないつもりのようで、「連絡先も全て消す」だとか「全社員男性にする」だとか、非現実的なところにまで発展していった。
彼の必死な姿に笑ってしまう。
「俺は本気だよ、麗華」
「うん……」
「麗華がずっと、ずっと好きだった」
「……その言葉が、ずっと聞きたかった」
「え?」
「私もね、正臣さんが好きだから」
彼の濡れた瞳を、冷えた指先で拭う。少し温かい液体が、私の心を溶かしていった。
幻聴だと思った。ここにいるはずのない人だと思ったから。
しかし、肩を叩かれ顔を上げると、目の前に会いたかったその人が立っていた。
「麗華! こんなに冷えて! いつからここにいたんだ!?」
「……正臣さん……」
仕事中はきっちりと整えてある髪はボサボサで、目の下のクマがすごい。彼の手も十分冷えていて、気のせいか瞳が潤んでいる。そんな彼を目視できたのは一瞬で、ぎゅっと抱きしめられた。力強い抱擁に、私の涙腺も崩壊していく。
「……探したよ」
「っ。ご、ごめんなさい……」
「こんなとこまで。一人で。何かあったらって、心配した」
「だってッ……」
身体を突き放そうとしたが、逃すまいとさらにきつく抱きしめられる。
彼の息遣いから、彼が泣いている気がした。
「正臣さん?」
「西国結奈は関係ない。彼女の父親とウェディング事業の話をしていただけだ。少し前から麗華と俺の式の演出について相談しているんだ。麗華に結婚を拒否されるのが怖くて、言い出せなかった」
「え……?」
「同棲までやっと漕ぎ着けたんだ! 麗華を名実ともに俺のものにしたかった!」
正臣さんが泣きながら告白するその言葉たちは、耳を疑う内容で、私は混乱していく。でも、湧き上がる歓喜が止められない。
「麗華が婚約破棄したいなんて言い出すから。逃したくないって焦って。黙って結婚式の用意までしていた。もう婚姻届も用意してあるんだ! でも、麗華は……、俺のことを好いてくれてるのか、分からなかったから」
「……でも、正臣さん、西國さんに笑いかけてた」
「笑った記憶はないけど。……あの子が『私にもチャンスはありますか』って聞いてきたから、『麗華一筋ですから』って答えた時かな。麗華のことを思い出したから、笑ったのかもしれない。……もう他の女性には笑いかけないようにするし、一瞬でも他の女性と二人きりにならないようにする。だから戻ってきてほしい」
社長としては絶対に不可能であろう条件を出してきて、秘書として思わず動揺する。
リゾートホテルグループの社長だ。接待先もさまざま、女性だって当然いるのに無理に決まっている。でも私が頷くまで離さないつもりのようで、「連絡先も全て消す」だとか「全社員男性にする」だとか、非現実的なところにまで発展していった。
彼の必死な姿に笑ってしまう。
「俺は本気だよ、麗華」
「うん……」
「麗華がずっと、ずっと好きだった」
「……その言葉が、ずっと聞きたかった」
「え?」
「私もね、正臣さんが好きだから」
彼の濡れた瞳を、冷えた指先で拭う。少し温かい液体が、私の心を溶かしていった。