君に甘やかされて溺れたい。


 でも、恋をするのは初めてじゃない。
 もはや恋と言ってもいいのかわからないけど。


「好き、だったかもしれない人は、いたよ」

「その人とは何もなかったの?」

「何もない。私の勘違いだったの。
だから藍良くんも、勘違いかもしれないよ」


 言ってしまってから、ハッとした。

 藍良くんがとても寂しそうな顔をしていた。

 今のは、酷かったかな……。


「あの、」
「紅ちゃん、その人に嫌なことされたの?」

「っ、」


 そ、れは。

 なんて答えたらいいのかわからなくて、口ごもる。

 そうしたら、急に口にマフィンが押し当てられた。


「むぐっ!?」


 突然すぎてびっくりしたけど、ふわっと香るココアの香りと甘さが広がって、勝手にもぐもぐと口が動いていた。

 すごく甘い、美味しい。


「忘れちゃいなよ」


 藍良くんは真っ直ぐ私を見つめる。


「僕に甘やかされて。嫌なこと全部忘れさせてあげる」

「……っ!」


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