君に甘やかされて溺れたい。
* * *
「紅ちゃんが読んでる漫画、なんてゆうの?」
昼休み、『甘恋。』を読んでいたら藍良くんがやってきた。
「『甘恋。』だよ」
「面白い?」
「すっごく面白いよ」
「そうなんだ。僕も読んでみようかな」
えっ。
「少女漫画だよ?男の子でも読むの?」
「読むよ。姉の漫画借りて読んだりしてたし」
「そうなんだ」
藍良くん、お姉さんいるんだ。
なんかすごくらしいな。
「それに紅ちゃんが好きなもの知りたいんだ」
……ああ、まただ。
現実は甘くないはずなのに、どうして藍良くんはそんなに甘いんだろう。
「……どうして藍良くんは私に話しかけてくれるの?」
「僕は、」
「やっぱりいいや。ごめんね、変なこと聞いて」
その先の言葉は、やっぱり聞きたくないと思った。
「明日『甘恋。』一巻から持ってくるね」
きっとまた私の勘違いかもしれないから。
また傷つけられるかもしれないから、蓋をした。
「紅ちゃんは――僕と話すの嫌?」
「えっ」
「迷惑、かな?」
「ち、違うよ!そうじゃなくて……男の子と何話していいかわからないだけ」