未来を失った君と、過去を失った私。

甘いお母さん

部屋に戻ると、お母さんはテキパキと私の荷物をまとめ始めた。
「さっ、明日の9時には出るからね」
明日の9時!?
なんか、随分と急な話じゃない…?
「花鶏も、由鶏(ゆとり)と会うの楽しみでしょう?」
由鶏とは、私の妹。小学5年生。
「楽しみ、だけど……」
「だけどって…どうしたの?病院で友達でもできたの?」
「うん」
こくりと頷くと、お母さんはにこっと微笑んだ。
「なら、LINE交換してらっしゃい。今からならみんないるはずよね」
「もう交換してる」
あら、という顔をするお母さん。
「そうなの?それなら、お見舞いに行けばいいじゃない」
お、見舞い……。
確かに!
「お母さん、天才!」
「お金はあげるから、お花でも買って行ってあげたら?」
「ほんと?ありがとう!」
「そのくらいいいのよ」
お母さん、いつにもまして甘いな……なんでだろう?
私が退院して、嬉しいのかな…うん、そうだ!
退院祝いだっ…!
「飲み物でもいる?」
「うーん……なら、ロイヤルミルクティーがいい。あの紅茶花香の」
「紅茶花香ね。わかったわ」
お母さんが出て行ったのと同じタイミングで隼人からLINEがきた。
『花鶏、さっきの女達誰?』
『わかんない』
そう送ると、一瞬でついた既読。
『わかんないとは??』
『アイツら完全に花鶏のこと虐めてたよね?』
『私記憶喪失みたいで』
『は??』
そうだよね……まぁそうなる。
『あの子たちは私がトラウマ的なことで忘れた人達なんだって』
そう答えると、メッセージが返ってきて。
『花鶏今から会えない?』
えぇっ!?今から!?
『お母さん帰ってきてから聞くから少し遅くなるかも』
『いい。中庭のベンチで待ってる』
お母さんを待つ間、写真のフォルダを確認する。
もしかしたら、記憶の手がかりになることがあるかもしれないから。
とゆーか……私はどうして忘れてしまったんだろう?
何か……あったのかな。
「ただいま花鶏〜」
「お母さん、ちょっと今から出かけてきてもいいかな」
「いいわよ。挨拶してらっしゃい。はい、紅茶花香」
「ありがとう!」
お母さんからペットボトルを受け取り、スマホを持って部屋を出た。
< 17 / 22 >

この作品をシェア

pagetop