まるごと大好き!
 あれは……中学3年生のときだった。私は生活指導の先生に頼まれて、昂志を探しに校舎裏まできた。放課後は大体ここでヒマをつぶしているから、今日もここだろうと思った。

「昂志」

「……」

 できればいないでほしいと思っていた。先生は昂志に〝不良〟のレッテルをはっていて、「なにか見つけたら速やかに連絡するように」と私によく言っていたから。
 タバコでも吸っているところを見つけて、報告してほしかったんだろう。でも昂志はそんなやつじゃない。

「やっぱりここにいたんだね」
「……」

 昂志はベンチで寝息をたてていた。
 校舎裏に放置された、ペンキがほぼハゲたボロボロのベンチ。昂志はそこで横になって、ぐっすり眠っていた。
 私はしのび足で昂志に近づいて、顔をのぞいてみた。髪がかからないように注意するのも忘れない。

「くまがすごいよ……」
「……」
「新聞配達続けながら受験勉強してるんだよね、お疲れさま」
「……」

 昂志のご両親は、私たちが小学校を卒業する日に亡くなった。交通事故だった。
 卒業式の朝、昂志は先に学校へ向かい、私や友だちとふざけあったり、おしゃべりしたりしていた。Tシャツや短パンではなく、スーツを着ていた彼が眩しかった記憶がある。
 式が終わって、校庭は卒業生とその家族でごった返した。
 私立中学に行く友だちと別れを惜しんだり、先生と写真を撮ったり、家族とこれからの予定を話したりと、みんながそれぞれ騒いでいる。
 私はお母さんと話しながら、目だけは昂志を探していた。式が終わったとたん、先生に連れられて職員室に行ってしまったのだ。
 あいつ、またしょうもないイタズラをやらかしたんだろうな。そう考えた。小学4年生のとき、昂志が悪友たちと校庭で花火をあげていたことを思い出した。
 でもすぐに戻ってくるよね。

 ──結局、戻ってはこなかった。
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