まるごと大好き!
「は? ちょっと……!?」
「静波が俺にキスしようとしたのは黙っとく」
「キ……!?」

 キスなんて、考えてもいなかったのに!
 そう訴えようとした私の唇を、昂志の人差し指がふさぐ。

「そのかわり、俺を連行しないし、俺の居場所もバラさない」

 私は昂志の指をにぎって、まじめな顔をした。

「交換条件?」
「そう」

 今度は、昂志が私の手をにぎる。

「いいよ。連れていかないし、誰にも言わない」
「……ありがと」
「別に、脅されたから」

 昂志がやんわりと微笑んだ。熱くなる顔を見られたくなくて、私はそっぽを向いて言い訳をした。

「……静波、遠くに行かないで。ずっと一緒にいて」

 私は思わず下を向いた。昂志は目を閉じて眠っている。
 その顔が泣きながら眠った子どものようで、そっと頭をなでてしまった。
 ボロボロのベンチは不安だったけど、なによりも疲れている昂志が心配で、私は立ちあがったりできなかった。

「ちょうどいい枕扱いね、私」

 独り言を言ったつもりが、昂志にはしっかり聞かれていたらしい。

「枕……?」
「もうちょっと寝てれば」

 昂志はうっすらと目を開けた。

「はじめから……好きな子扱いしか、してない」

 それだけ言うと、今度こそ本当に寝てしまった。安らかな寝息が聞こえてくる。

「ごめん、昂志……ずっと一緒にはいられない」

 私の夢は、海外留学して医者になり、世界の紛争地域や難民キャンプに向かい世界中の人たちを救うこと。
 昂志が望んでいる関係には、なれない。
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