まるごと大好き!
 数分……ううん、数秒くらいしか時間はかからなかったと思う。やけに手慣れてるのが、余計に怖かった。
 彼らは抵抗しない私を、たぶん後部座席あたりに押しこんだ。シートがちくちくしてかゆい。思わず身じろぐと、あのお婆さんの声がした。

「だれにも見られなかったでしょうね?」
「そんなヘマしねぇよ」

 不機嫌そうな男の声が答えた。
 もしかしなくても、私、ハメられた?

「ケガさせねぇで料亭まで運びゃいいんだろ?」
「料亭の中までよ」
「へいへい」

 うっとうしそうな口調で、さっきの男とは別の男が答えた。
 口うるさい母親をうざったく思う思春期の子どもみたいだ。
< 62 / 82 >

この作品をシェア

pagetop