まるごと大好き!
 ……なぜか廊下で互いに壁ドンをしていた。他の男子も2人か3人いたような気がする。
 挨拶がてらなんの遊びか聞けば、誰が一番カッコいい壁ドンができるかを競っていたらしい。

「この間のあれよりはいいだろ?」
「ああ、階段をいかに美しく飛び降りるかってやつね」

 危険すぎて話にもならんわバカもん。
 そう喚いてちゃぶ台でもひっくり返したくなるのをこらえて、あくまでクールに対応する。

「邪魔にならないようにするなら、なにも言わないよ」
「おうお前ら、生徒会長のオスミツキをもらったぞ!」

 真岡くんが拳をふり上げると、うおーっと歓声が響く。ああ、もう、しまった。余計なことを言うんじゃなかった。
 けど珍しく昂志はのらなかった。顎をなでながらなにかを考えている。そうやって真面目な顔をしていると、同年代の男の子たちより大人びて見えるから不思議だ。

「静波」
「え?」

 やたらと落ち着いた声で名前を呼ばれたと思ったら、顔の横に手を置かれている。日に焼けた健康的な肌。私よりもひと回り大きな手。
 え? これって……。

「こっち向いて」
「あ……」

 少しだけカサついた指が、私の顎をそっとつかむ。
 そのまま優しく昂志のほうに顔を向かせられた。
 タレ目の、優しそうで眠そうな瞳に私が映っている。表情まではわからない。でも、きっと間抜けにうすく口を開けているに違いない。

「あでっ!」

 昂志の間抜けな声に、私はハッと目を覚ます。

 足をさすっている昂志の後ろで、男の子たちが口をパカンと開けていた。
 見れば、顔を真っ赤に染めあげた真岡くんは仁王立ちをしている。

「おっま……こんなとこで本気出すなっ……!」

 真岡くんはそれだけやっと言いきった。目が若干うるんでいる気がする。
 他の男の子たちは、全身まで赤くして固まっていた。それでも、そのうちの1人はかすれた声で「モテ男の本気、コワッ」とつぶやく。うんうん。わかるよ。動けなくなっちゃうよね。
 こんなことされたら、きっとどんな女の子も昂志を好きになるだろうな。
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