危険な略奪愛 お嬢様は復讐者の手に堕ちる
「今後、私は福祉のほうに力を入れたいと思っている。なかなかすぐに国益に繋がるわけではないから、支持を集めるのが難しい。皆がお前や達也君のように裕福に育つわけではない。だからこそ政治が必要だ。そして政治には金がかかる」
暗に達也の実家との繋がりが必要なことをほのめかしている。
──家を出よう。話してもだめだ。私の味方なんていない。
暗い気持ちで父の書斎をあとにした。
──片桐さんが好き。もうごまかせない。
片桐が自分とどうにかなるつもりがないことは、最近の態度でわかった。だからといって、簡単に忘れられるわけでもない。
それでも自分の気持ちをこれ以上ごまかして生きるのはいやだった。
父と戦うことが必要だ。
これは今まで受け身で生きてきたすみれが払うべき代償なのだろう。
自分の心に嘘はつけない
すみれは誰にも相談せず、家を出る準備をした。父の庇護のもとで、自分の我を通すのは道理にかなわないと思ったからだ。
なんといっても、すみれはもう成人で、少ないとはいえ安定した収入もある。働いて貯めた貯金で引っ越しはなんとかなる。
仕事の合間に不動産屋を巡り、大体の目星もつけたが、連帯保証人を頼める人がいなかった。父にはもちろん言えないし、そんなことを友人に頼むわけにもいかない。
「どうしたの? 暗い顔して。体調、よくないの?」
「あ、いえ。体調は大丈夫なんですけど、色々あって」
上司の鈴木に声をかけられた。毒舌で厳しいが信頼できる人だった。