危険な略奪愛 お嬢様は復讐者の手に堕ちる
「悪いな。ちょうど仕事で近くまで来てな。激務でなかなか予定が空かないんで許してくれ。それで、どうだ。なにか宝来についていい情報は見つかったか」
「……いや」
本当は、実行犯の家族へ送金していた通帳が見つかっていたが、そんなことを言う気分ではなかった。
自分の手で決着をつけるつもりだったからだ。
しかし、その気持ちも最近では揺らいでいた。
すみれのことが気にかかっている。それに婚約破棄でもめて参っている今、父親の悪事まで暴かれたらどうなるかわからない。せめて達也がもっとまともな男ならばまだよかったのになどと、自分勝手で的外れなことを思ったりもする。
華やかそうに見える外見とは裏腹に、繊細で脆いところがある。
──すみれを巻き込みたくない。
そんな都合のよいことがあるはずはないのに、すみれの存在が蓮の復讐心を萎えさせる。
すみれに罪はない。いくら宝来正道が外道でも、すみれ自身には関係がない。だからといって、娘のために宝来正道の罪を見逃すなどあってはならない。
両親を亡き者にした宝来正道の罪を暴くためだけに、ここまで来たのだ。
だからこそ、証拠が集まった今、躊躇する必要はない。
罪は償われるべきで、悪人は裁かれるべきだ。
それなのに、すみれのことが頭から離れない。婚約者に裏切られ、一人寂しく家を出ていった後ろ姿が目に焼き付いている。
「表向きは庶民の味方ですみたいなクリーンなイメージで売ってはいるが、裏じゃ反社会勢力との繋がりも深い。それだけでも大問題なのに、過去の殺人事件とも関わりがあるとわかれば、奴の政治家生命は終わりだ」
北田がさも愉快そうに笑う。
それを望んでいたのに、蓮の心は虚ろだった。