危険な略奪愛 お嬢様は復讐者の手に堕ちる
あっさりと言われて拍子抜けした。
「注目されるのも大変だ」
いつも敬語の片桐がどこか皮肉気に笑う。彼が笑ったのを見たのは初めてだ。
「あなたはどうしてここへ?」
「ちょっと夜風に当たりたくて。少し待っててください」
片桐が少しその場を離れ、すぐに飲み物をもって戻ってきた。
「どうぞ」
「ありがとう」
冷たいレモネードを飲むと少しすっきりした気分になる。それ以上なにも聞けなかったが、自分を気遣ってくれたことが意外だった。
波の音と、会場から漏れる音楽が混ざり合い不思議な時間が流れた。
無言で海を眺めているとその暗さと静けさに、不思議と心が凪いでくる。
「今日は静かだ」
「あなたはどうして……」
どうしてこんなところに一人でいるのか尋ねようとすると、後ろから声をかけられた。
「すみれ」
後ろから声をかけられ、振り返ると達也がいた。
「ごめんなさい。少し気分が悪くて風に当たっていたの」
「そうか。医務室へ行くか?」
「いいえ。もう大丈夫。戻ります」
気づくと片桐は二人に会釈をして、去っていった。
「どうした?」
「少し気分が悪くて風に当たっていたら、片桐さんが飲み物を持ってきてくれたの」
「へぇ。宝来先生が有能だって褒めてたけど、俺はあんまり好きじゃないな。なに考えてるかわからない」
達也が人を悪く言うのは珍しい。だが確かに片桐蓮には得体の知れないところがある。
絵を描く関係で、人の表情をよく観察する癖があるすみれから見ても、片桐は今まで会ったことがない独特の雰囲気があった。