危険な略奪愛 お嬢様は復讐者の手に堕ちる

 怒りも憎しみも悲しみさえも歳月が鎮めてくれたのだろうか。いや、自分が本当に大切なものを見つけ、選んだからかもしれなかった。

「好きな人ができたんだ。彼女と幸せになりたい。どうか見守ってください」

 祈るような気持ちで、小さく呟く。蓮の濡れた頬を、潮風が静かに撫でた。




 手術を終えて面会が可能になった日。すみれのもとに蓮がやってきた。

「仕事は? まだ新人なんだから、休んじゃだめだよ」
「ちゃんと行ってるよ」

 入院中、病院近くのホテルに滞在しながら始発で東京まで行って、終電で帰るという無茶な生活をしているらしかった。

「蓮が倒れちゃう」
「大丈夫だよ、これくらい」

 もう二度と会えない、会ってはいけないと思っていた人が傍らにいる。そのことをまだ信じることができない。
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