危険な略奪愛 お嬢様は復讐者の手に堕ちる

 自分に尋ねるように口に出していた。

「忘れなくていい。すみれが受けとめられない感情は俺が預かるよ」

 隣には蓮がいる。孤独に押し潰されそうな夜は蓮にもあったのだろう。
 すみれが別れを告げた時、蓮はもうすみれと生きていく覚悟を決めていたのだろうか。
 長い長い遠回り。でもそれもまた必要なことだったと今では思える。

「だから、もう待たない。返事を聞かせてくれ」
「蓮。ずっと一緒にいて、もう離れたくない」

 蓮の手が伸びてきて、ぐっと抱き寄せられる。
 病室の床で二つの影が重なった。
 
 カーテンの隙間から心地よい風が吹いてくる。誰かが開けっ放しにしたのか、窓から散っていく桜の花びらがひとひら部屋に舞い込んだ。
 
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