大魔導士は果てのない愛を金の環にこめて
願ったり叶ったり
翌朝、急にエドの部屋に呼び出されたわたしは、急な配置変えを命じられた。
「一緒に行くのですか? わたしが?」
「そうです。あなたに拒否権はありません」
「拒否だなんて……」
エドはわたしが嫌がるとでも思っているようで、じっとりと睨みつけてくる。
拒否するはずがない。むしろ飛び跳ねたくなるくらい嬉しいと思っているこの気持ちがエドに伝わってほしい。
わたしは、エドと一緒に王宮へ行くことになった。
契約魔法の定着が不安定で、側に居て経過を見ておかないといけないからエドの仕事場に連れて行くことにしたらしい。
王宮へ行くということで、わたしはお仕着せからドレスに着替えた。
濃紺のドレスは首元が詰まっており、一見すると窮屈そうな型だけど着てみると案外動きやすい。
腰から裾にかけてはふんわりとした形になっており、ドレープが上品に重ねられている。
もともとわたしが着る為に用意してくれていたドレスのようで、エドの気遣いにまた頬が緩んでしまう。
ドリスさんからエドとわたしの昼食が入っているバスケットを受け取り、馬車に乗り込んでお屋敷を出た。
カラカラと車輪が回る音を聞きながら、わたしはバスケットを見てふふと笑う。
「ピクニックに行くときはこのようなバスケットに食事を詰めるのですよね? 今日のお昼が楽しみです」
それとなくエドに話しかけると、窓の外を見ていたエドがこちらを振り向く。
「……私たちはピクニックではなく、仕事をしに行くのですからね?」
「わかっていますよ」
「本当にわかっているのでしょうか?」
エドはお気楽なわたしに呆れているらしく、小さく肩を竦めた。そのような姿さえも、間近で見られるようになったのが嬉しくて仕方がない。
むくむくと胸の内に湧き上がってくる喜びが爆ぜてしまわないよう、わたしはバスケットを深く抱え込んだ。
それからしばらく馬車が走れば、昨日ぶりの王城に到着した。
エドはエスタシオン王立魔導士団に所属しており、王宮内にある魔導士団の本拠地である塔に私室を貰っている。
普段はその私室で研究をしたり論文を書いているらしい。
つい最近までイヴェール王国との戦争に出ていたエドは今、留守にしていた間に溜まった書類の処理に追われているようだ。
「あの、わたしは旦那様の部屋を掃除したらいいのでしょうか?」
「その必要はありません。あなたが私の前から消えては困りますので、部屋の中にいてもらいます」
「部屋の中にいるだけ……」
「ええ、座椅子があるのでそこに座っていてください」
「座るだけ……」
エドが仕事に励んでいる傍らでわたしはただ座っているだけ。働き始めて二日目で早くもできそこない認定をされたようで惨めになる。
(掃除が駄目ならお茶を淹れるくらいなら許してもらえるかしら?)
「旦那様、それなら――」
口にしかけた言葉は、覚えのある声に妨げられた。
「よぉ、姫さんは元気に歩けるようになったんだな」
声がした方に顔を向け、わたしたちに近づく男性の姿を見て、息が詰まりそうになる。
燃えるような赤い髪を持つ騎士服を着た精悍な顔立ちの男性が、着実にわたしたちに歩み寄ってきているのだ。
彼の銀色の瞳はしっかりとわたしを捕らえている。
――騎士は苦手だ。
イヴェール王国にいた時、騎士たちには憂さ晴らしで嫌がらせをされてきたため、彼らを見ると震えが止まらなくなってしまう。
そのため目の前の人物の騎士服が視界に入った途端に、自分の体が強張って動かなくなる。胸の奥では心臓がうるさく鳴り響き、背にはうっすらと冷や汗が流れた。
「一緒に行くのですか? わたしが?」
「そうです。あなたに拒否権はありません」
「拒否だなんて……」
エドはわたしが嫌がるとでも思っているようで、じっとりと睨みつけてくる。
拒否するはずがない。むしろ飛び跳ねたくなるくらい嬉しいと思っているこの気持ちがエドに伝わってほしい。
わたしは、エドと一緒に王宮へ行くことになった。
契約魔法の定着が不安定で、側に居て経過を見ておかないといけないからエドの仕事場に連れて行くことにしたらしい。
王宮へ行くということで、わたしはお仕着せからドレスに着替えた。
濃紺のドレスは首元が詰まっており、一見すると窮屈そうな型だけど着てみると案外動きやすい。
腰から裾にかけてはふんわりとした形になっており、ドレープが上品に重ねられている。
もともとわたしが着る為に用意してくれていたドレスのようで、エドの気遣いにまた頬が緩んでしまう。
ドリスさんからエドとわたしの昼食が入っているバスケットを受け取り、馬車に乗り込んでお屋敷を出た。
カラカラと車輪が回る音を聞きながら、わたしはバスケットを見てふふと笑う。
「ピクニックに行くときはこのようなバスケットに食事を詰めるのですよね? 今日のお昼が楽しみです」
それとなくエドに話しかけると、窓の外を見ていたエドがこちらを振り向く。
「……私たちはピクニックではなく、仕事をしに行くのですからね?」
「わかっていますよ」
「本当にわかっているのでしょうか?」
エドはお気楽なわたしに呆れているらしく、小さく肩を竦めた。そのような姿さえも、間近で見られるようになったのが嬉しくて仕方がない。
むくむくと胸の内に湧き上がってくる喜びが爆ぜてしまわないよう、わたしはバスケットを深く抱え込んだ。
それからしばらく馬車が走れば、昨日ぶりの王城に到着した。
エドはエスタシオン王立魔導士団に所属しており、王宮内にある魔導士団の本拠地である塔に私室を貰っている。
普段はその私室で研究をしたり論文を書いているらしい。
つい最近までイヴェール王国との戦争に出ていたエドは今、留守にしていた間に溜まった書類の処理に追われているようだ。
「あの、わたしは旦那様の部屋を掃除したらいいのでしょうか?」
「その必要はありません。あなたが私の前から消えては困りますので、部屋の中にいてもらいます」
「部屋の中にいるだけ……」
「ええ、座椅子があるのでそこに座っていてください」
「座るだけ……」
エドが仕事に励んでいる傍らでわたしはただ座っているだけ。働き始めて二日目で早くもできそこない認定をされたようで惨めになる。
(掃除が駄目ならお茶を淹れるくらいなら許してもらえるかしら?)
「旦那様、それなら――」
口にしかけた言葉は、覚えのある声に妨げられた。
「よぉ、姫さんは元気に歩けるようになったんだな」
声がした方に顔を向け、わたしたちに近づく男性の姿を見て、息が詰まりそうになる。
燃えるような赤い髪を持つ騎士服を着た精悍な顔立ちの男性が、着実にわたしたちに歩み寄ってきているのだ。
彼の銀色の瞳はしっかりとわたしを捕らえている。
――騎士は苦手だ。
イヴェール王国にいた時、騎士たちには憂さ晴らしで嫌がらせをされてきたため、彼らを見ると震えが止まらなくなってしまう。
そのため目の前の人物の騎士服が視界に入った途端に、自分の体が強張って動かなくなる。胸の奥では心臓がうるさく鳴り響き、背にはうっすらと冷や汗が流れた。