大魔導士は果てのない愛を金の環にこめて
親切な騎士さん
「ああ、触れてしまってすまない」
グランヴィル卿は支えてくれていた手をゆっくりと引いて離れてくれた。
「大魔導士様はどこに行った? あの人が姫さんを一人で歩かせるはずがないと思うんだけど……まさか、逃げ出して来たのか?」
「ち、ちがっ……!」
「冗談だよ。大魔導士様ともあろう方が易々と逃がしてくれないはずだ」
ニカリと笑われて、改めて揶揄われているのだとわかる。
それでも嫌な気持ちになることはなかった。
むしろ彼の邪気の無い笑顔を見ていると緊張感がほぐれてくれる。
「もし本当に逃げたくなったら、いつでも俺を頼ってくれ。すぐに駆けつけて、姫さんを助け出すから」
「どうしてそこまでしようとしてくださるのですか?」
「言っただろう? 俺は姫さんに一目惚れしたんだよ。塔で姫さんを見つけた時、捕らわれた妖精かと思った。力なく眠っている姫さんを見ていると、幸せにしたい、笑顔にさせたいと思うようになって――それからずっと、姫さんのことを忘れられなかったんだ」
まるで恋愛物語にでも書かれてそうな言葉を聞かされて、頬が赤くなってしまう。
いざ自分が言われると照れくさい。
(心根が真っ直ぐで親切な方だわ。好きになった人を幸せにしたいと願っているのだもの)
私もエドには幸せになってもらいたいけれど――それと同じくらいに、彼と離れたくないと駄々をこねる自分も居るから、グランヴィル卿の心を眩く感じられた。
「グランヴィル卿、お気持ちは嬉しいのですが、わたしにはもう心に決めた方がいます。ですから、グランヴィル卿のお気持ちに応えられません」
「はは、姫さんはハッキリと言ってくれるな」
突然、グランヴィル卿は地面に膝をついてしまう。
あたふたとするわたしの手を恭しく取った。
「姫さん、たとえ今は気持ちに応えてもらえなくても――」
「その手を離してください」
エドの冷気を帯びた声が飛んでくる。
緊張感を孕んだ声に、グランヴィル卿が身構えたのが見て取れた。
「怖い顔で睨まないでください。姫さんを襲ったりしませんよ」
エドの綺麗な手がわたしの腕を掴み、グランヴィル卿から引き離す。
「旦那様、グランヴィル卿は一人でいたわたしを心配して声を掛けてくれたのです」
「……そうですか。私がフィーから離れたばかりにご心配をおかけしてしまったのですね」
わたしの腕を掴んだまま挨拶をすると、エドは転移魔法を発動させた。
周りの景色が白い世界の中に消えてしまい、気付けば見知らぬ部屋の中に居た。
窓の外に見える景色に覚えがある。
おそらくここは――エドの私室だ。
「騎士に懸想しては駄目ですよ。あなたは私の侍従なのですから……」
「旦那様、懸想なんてしていません」
「……それでは、あなたが心に決めている方は誰ですか?」
ひやりとして心臓が早鐘を打ち鳴らす。
(グランヴィル卿との会話を聞かれていたんだわ)
どこまで聞かれていたのかはわからない。ただ、エドが勘違いをしてしまったのは確かだ。
「魔法で縛るような人間の側に居るのはさぞかし苦痛でしょう」
エドは苦しそうに口にする。泣き出しそうな顔で、切れ切れに。
じわじわと壁際に追い詰められた私の顎を掴み、優しい力で上を向かせらえる。
「――どうやらあなたは、私を悪い主にしたいようですね」
「旦那さ――……」
言葉はぷつりと切れた。
まるでわたしの口に蓋をするかのように重ねられ、徐々に深くなっていく。
奪うように与えられた口づけはただただ優しく、それがひどく切なかった。
グランヴィル卿は支えてくれていた手をゆっくりと引いて離れてくれた。
「大魔導士様はどこに行った? あの人が姫さんを一人で歩かせるはずがないと思うんだけど……まさか、逃げ出して来たのか?」
「ち、ちがっ……!」
「冗談だよ。大魔導士様ともあろう方が易々と逃がしてくれないはずだ」
ニカリと笑われて、改めて揶揄われているのだとわかる。
それでも嫌な気持ちになることはなかった。
むしろ彼の邪気の無い笑顔を見ていると緊張感がほぐれてくれる。
「もし本当に逃げたくなったら、いつでも俺を頼ってくれ。すぐに駆けつけて、姫さんを助け出すから」
「どうしてそこまでしようとしてくださるのですか?」
「言っただろう? 俺は姫さんに一目惚れしたんだよ。塔で姫さんを見つけた時、捕らわれた妖精かと思った。力なく眠っている姫さんを見ていると、幸せにしたい、笑顔にさせたいと思うようになって――それからずっと、姫さんのことを忘れられなかったんだ」
まるで恋愛物語にでも書かれてそうな言葉を聞かされて、頬が赤くなってしまう。
いざ自分が言われると照れくさい。
(心根が真っ直ぐで親切な方だわ。好きになった人を幸せにしたいと願っているのだもの)
私もエドには幸せになってもらいたいけれど――それと同じくらいに、彼と離れたくないと駄々をこねる自分も居るから、グランヴィル卿の心を眩く感じられた。
「グランヴィル卿、お気持ちは嬉しいのですが、わたしにはもう心に決めた方がいます。ですから、グランヴィル卿のお気持ちに応えられません」
「はは、姫さんはハッキリと言ってくれるな」
突然、グランヴィル卿は地面に膝をついてしまう。
あたふたとするわたしの手を恭しく取った。
「姫さん、たとえ今は気持ちに応えてもらえなくても――」
「その手を離してください」
エドの冷気を帯びた声が飛んでくる。
緊張感を孕んだ声に、グランヴィル卿が身構えたのが見て取れた。
「怖い顔で睨まないでください。姫さんを襲ったりしませんよ」
エドの綺麗な手がわたしの腕を掴み、グランヴィル卿から引き離す。
「旦那様、グランヴィル卿は一人でいたわたしを心配して声を掛けてくれたのです」
「……そうですか。私がフィーから離れたばかりにご心配をおかけしてしまったのですね」
わたしの腕を掴んだまま挨拶をすると、エドは転移魔法を発動させた。
周りの景色が白い世界の中に消えてしまい、気付けば見知らぬ部屋の中に居た。
窓の外に見える景色に覚えがある。
おそらくここは――エドの私室だ。
「騎士に懸想しては駄目ですよ。あなたは私の侍従なのですから……」
「旦那様、懸想なんてしていません」
「……それでは、あなたが心に決めている方は誰ですか?」
ひやりとして心臓が早鐘を打ち鳴らす。
(グランヴィル卿との会話を聞かれていたんだわ)
どこまで聞かれていたのかはわからない。ただ、エドが勘違いをしてしまったのは確かだ。
「魔法で縛るような人間の側に居るのはさぞかし苦痛でしょう」
エドは苦しそうに口にする。泣き出しそうな顔で、切れ切れに。
じわじわと壁際に追い詰められた私の顎を掴み、優しい力で上を向かせらえる。
「――どうやらあなたは、私を悪い主にしたいようですね」
「旦那さ――……」
言葉はぷつりと切れた。
まるでわたしの口に蓋をするかのように重ねられ、徐々に深くなっていく。
奪うように与えられた口づけはただただ優しく、それがひどく切なかった。