大魔導士は果てのない愛を金の環にこめて
むかしの記憶(上)
わたしがエドと出会ったのは幼い頃のこと。
王宮の廊下で見かけたのが始まりだった。
その日、イヴェールが戦争を仕掛けて滅ぼした国の捕虜たちが王城に連れてこられるという噂は耳にしていた。
まだ若い王子や姫、そして王族に仕えていた侍従や騎士や魔導士など。
彼らの処遇をお父様が決めるために謁見の間に呼んで集めさせるのだと。
その一行がイヴェールの騎士たちに連れられて廊下を歩いている近くに居合わせたのだった。
捕虜を見たのは初めてだった。
みんな疲労と絶望に滲んだ表情で、黙々と歩いていた。
そんな中、美しい銀色の髪を持つ少年が現れたその瞬間、変わらない景色のなかに鮮烈な彩りが塗られたような衝撃があって息を呑んだ。
冴えわたる冬の空に輝く月のような静謐な光を放つ銀色の髪の少年、その少年こそがエドだった。
仄かに光を纏っているようにも見えるほど神々しい相貌に見惚れていると視線を感じ取ったのか、エドは顔を上げて目が合った。
宵の初めの深い青色の空を閉じ込めたような瞳はお姉さまが身につけている宝石のようにも見えるけどそれ以上に美しく、息をつめて見入ってしまっていた。
エドもまた、わたしの姿をじっと見ていた。
だけどそばにいる大人に促されて、視線を外してしまった。
敗戦国リエータの、魔導士団の師団長の息子。
だから幼い彼は連れてこられたらしい。
それから数日後、王宮の庭園の隅でまたエドと出会った。
木の実を集めている時に目の前に現れたのだ。
地面に落ちている木の実を拾い上げて食べられそうなものを選別していると、すっと影が差して、見上げたらあの青い目に見つめられていた。
「何をしているんですか?」
澄んだ声で問いかけてきたのは純粋な好奇心のようだった。
「木の実を集めていました。集めて乾燥させると長持ちするんです」
「あなたが食べるんですか?」
エドは驚きを隠さずに瞠目した。
地面に落ちている木の実を食べるなんて考えもしなかったのだろう。
するとエドは、わたしの右腕にそっと触れた。そではまるで壊れ物に触れるかのようで、くすぐったかった。
「食事を……与えられていないのですね?」
一瞬にして声が冷気を帯びて不穏に空気を震わせた。
怒気がこもった瞳は青く燃え上がる炎にも似た激しい感情が見え隠れした。
美しくも恐ろしい表情に身が竦んでしまう。
「明日も、あなたに会いに来ます」
「えっ……?」
それは初めて言ってもらえた言葉だった。
城に来ている年の近い子どもたちは落胤姫なんかに話しかけたりはしない。それなのにエドは一度ならずまた会うと言ってくれたのだ。
驚きと、
期待と、
不安、
それらがまぜこぜになった気持ちでエドを見上げた。
「あなたと話したいんです」
エドはわたしの手を取ったまま地面に膝を突いた。
その様子は、侍従がお姉さまに話して聞かせていた恋愛物語のようで、幼い私はひどく舞い上がってしまっていた。
「金の環で繋がったあなたと、こうしてまた会う日を待っていました」
その時一瞬だけ、恍惚とした光を瞳に宿したような気がしたけど、きっと見間違いなんだと、そう思った。
王宮の廊下で見かけたのが始まりだった。
その日、イヴェールが戦争を仕掛けて滅ぼした国の捕虜たちが王城に連れてこられるという噂は耳にしていた。
まだ若い王子や姫、そして王族に仕えていた侍従や騎士や魔導士など。
彼らの処遇をお父様が決めるために謁見の間に呼んで集めさせるのだと。
その一行がイヴェールの騎士たちに連れられて廊下を歩いている近くに居合わせたのだった。
捕虜を見たのは初めてだった。
みんな疲労と絶望に滲んだ表情で、黙々と歩いていた。
そんな中、美しい銀色の髪を持つ少年が現れたその瞬間、変わらない景色のなかに鮮烈な彩りが塗られたような衝撃があって息を呑んだ。
冴えわたる冬の空に輝く月のような静謐な光を放つ銀色の髪の少年、その少年こそがエドだった。
仄かに光を纏っているようにも見えるほど神々しい相貌に見惚れていると視線を感じ取ったのか、エドは顔を上げて目が合った。
宵の初めの深い青色の空を閉じ込めたような瞳はお姉さまが身につけている宝石のようにも見えるけどそれ以上に美しく、息をつめて見入ってしまっていた。
エドもまた、わたしの姿をじっと見ていた。
だけどそばにいる大人に促されて、視線を外してしまった。
敗戦国リエータの、魔導士団の師団長の息子。
だから幼い彼は連れてこられたらしい。
それから数日後、王宮の庭園の隅でまたエドと出会った。
木の実を集めている時に目の前に現れたのだ。
地面に落ちている木の実を拾い上げて食べられそうなものを選別していると、すっと影が差して、見上げたらあの青い目に見つめられていた。
「何をしているんですか?」
澄んだ声で問いかけてきたのは純粋な好奇心のようだった。
「木の実を集めていました。集めて乾燥させると長持ちするんです」
「あなたが食べるんですか?」
エドは驚きを隠さずに瞠目した。
地面に落ちている木の実を食べるなんて考えもしなかったのだろう。
するとエドは、わたしの右腕にそっと触れた。そではまるで壊れ物に触れるかのようで、くすぐったかった。
「食事を……与えられていないのですね?」
一瞬にして声が冷気を帯びて不穏に空気を震わせた。
怒気がこもった瞳は青く燃え上がる炎にも似た激しい感情が見え隠れした。
美しくも恐ろしい表情に身が竦んでしまう。
「明日も、あなたに会いに来ます」
「えっ……?」
それは初めて言ってもらえた言葉だった。
城に来ている年の近い子どもたちは落胤姫なんかに話しかけたりはしない。それなのにエドは一度ならずまた会うと言ってくれたのだ。
驚きと、
期待と、
不安、
それらがまぜこぜになった気持ちでエドを見上げた。
「あなたと話したいんです」
エドはわたしの手を取ったまま地面に膝を突いた。
その様子は、侍従がお姉さまに話して聞かせていた恋愛物語のようで、幼い私はひどく舞い上がってしまっていた。
「金の環で繋がったあなたと、こうしてまた会う日を待っていました」
その時一瞬だけ、恍惚とした光を瞳に宿したような気がしたけど、きっと見間違いなんだと、そう思った。