大魔導士は果てのない愛を金の環にこめて
あなたを知りたい
「フィー、いい加減起きなさい」
ドリスさんの声と頭を撫でる優しい掌の感覚で目を覚ます。
仕事中だったのを思い出して慌ててあたりを見回すと、部屋の中にはもうエドはいなかった。おまけに窓の外は真っ暗で、窓ガラスは室内を映している。
「わ、わたし、まさか眠ってしまったのでしょうか?」
「そのまさかだよ。うちのご主人様は優しいからいいけど、他所でこんなことをしたら大目玉を食らうからね?」
「はぁい……。申し訳ございませんでした」
さっそくやらかしてしまったのが恥ずかしく、頭を抱えて反省していると、ドリスさんはもう一度優しくわたしの頭を撫でてくれた。
「いいのよ。今日はここに来たばかりで緊張して疲れたのでしょう? 旦那様もそれをわかっていてお許しになったのよ」
(ああ、やはりエドは優しい……)
どれだけ冷たい視線を投げかけてきても、やはりエドは昔の心優しいエドのままだ。
たとえ憎い敵国の姫が仕事中に眠ってしまっても、怒るどころかそっとして寝かせてくれている。
変わらぬ優しさに触れて嬉しくなり、胸にそっと手を当てる。その時、腕に微かな負荷がかかって初めて、自分の体に誰かの服が掛けられているのに気付いた。
「これは……!」
深いロイヤルブルーの上着で、一見すると無地のようだが、目を凝らせば同色の糸で細やかな刺繍が施されている。
(見間違いではないわ。これはエドが羽織っていた上着に違いない……!)
居眠りする前に見たエドはこの上着を着て書類に目を通していた。
謁見の間で見た黒を基調とする礼装も素敵だけど、簡素な型の上着を着たエドもまた麗しかった。
「……ということは、つまり、これは旦那様が掛けてくださったのでしょうか?」
「そういうことになるね」
「旦那様が……私に……」
「フィー?! 突然うずくまってどうしたんだい?!」
心配してくれているドリスさんには申し訳ないけれど、これは決して体の不調ではなくて。
エドのさりげなく且つ紳士的な気遣いがただただ嬉しくて、自分を抱きしめて持て余す喜びをやり過ごしているだけだ。
「旦那様の優しさに感激していたのです」
もうエドに優しく微笑みかけてもらえることは無いのかもしれないと落ち込んでいたのに、このような一面を見せられるとますますエドのことが好きになってしまう。
「ドリスさん、旦那様の好きな物を教えてください!」
「い、いいけど……急にどうしたんだい?」
「私、もっと旦那様のことを知りたいです! 教えていただけませんか?!」
ドリスさんはほろりと笑って、「まあまあ、この子ったら」と零した。
それがどのような事を意味していたのか、この時の私はまだ気づいていなかった。
ドリスさんの声と頭を撫でる優しい掌の感覚で目を覚ます。
仕事中だったのを思い出して慌ててあたりを見回すと、部屋の中にはもうエドはいなかった。おまけに窓の外は真っ暗で、窓ガラスは室内を映している。
「わ、わたし、まさか眠ってしまったのでしょうか?」
「そのまさかだよ。うちのご主人様は優しいからいいけど、他所でこんなことをしたら大目玉を食らうからね?」
「はぁい……。申し訳ございませんでした」
さっそくやらかしてしまったのが恥ずかしく、頭を抱えて反省していると、ドリスさんはもう一度優しくわたしの頭を撫でてくれた。
「いいのよ。今日はここに来たばかりで緊張して疲れたのでしょう? 旦那様もそれをわかっていてお許しになったのよ」
(ああ、やはりエドは優しい……)
どれだけ冷たい視線を投げかけてきても、やはりエドは昔の心優しいエドのままだ。
たとえ憎い敵国の姫が仕事中に眠ってしまっても、怒るどころかそっとして寝かせてくれている。
変わらぬ優しさに触れて嬉しくなり、胸にそっと手を当てる。その時、腕に微かな負荷がかかって初めて、自分の体に誰かの服が掛けられているのに気付いた。
「これは……!」
深いロイヤルブルーの上着で、一見すると無地のようだが、目を凝らせば同色の糸で細やかな刺繍が施されている。
(見間違いではないわ。これはエドが羽織っていた上着に違いない……!)
居眠りする前に見たエドはこの上着を着て書類に目を通していた。
謁見の間で見た黒を基調とする礼装も素敵だけど、簡素な型の上着を着たエドもまた麗しかった。
「……ということは、つまり、これは旦那様が掛けてくださったのでしょうか?」
「そういうことになるね」
「旦那様が……私に……」
「フィー?! 突然うずくまってどうしたんだい?!」
心配してくれているドリスさんには申し訳ないけれど、これは決して体の不調ではなくて。
エドのさりげなく且つ紳士的な気遣いがただただ嬉しくて、自分を抱きしめて持て余す喜びをやり過ごしているだけだ。
「旦那様の優しさに感激していたのです」
もうエドに優しく微笑みかけてもらえることは無いのかもしれないと落ち込んでいたのに、このような一面を見せられるとますますエドのことが好きになってしまう。
「ドリスさん、旦那様の好きな物を教えてください!」
「い、いいけど……急にどうしたんだい?」
「私、もっと旦那様のことを知りたいです! 教えていただけませんか?!」
ドリスさんはほろりと笑って、「まあまあ、この子ったら」と零した。
それがどのような事を意味していたのか、この時の私はまだ気づいていなかった。