もっとドキドキさせて
行かないで、と言ってみたものの、どうしたらいいんだろう。
広い部屋の中は、しんと静まり返っていた。
ここは私から話を広げるべきだろう。
「2人きりでこういう時間過ごすの久しぶりだね」
久しぶりなのに、あの時とは違う感情が溢れてくる。
ドキドキして何を話したらいいのか分からなかった。
「そうですね。お互い幼い頃から一緒に過ごしていましたから」
怜の記憶の中にも、私と同じ記憶が刻まれている気がして嬉しくなった。
「ね、あの時みたいに絵本読んでよ」
寝付きの悪い私を心配して、同じベッドに寝そべって絵本を読んでくれた怜の横顔を思い出した。
「かしこまりました。少々お待ちください」
躊躇すると思った怜が、すぐに了承したものだから、びっくりしてしまった。
また、同じベッドに寝そべって本を読んでくれるのだろうか。
そんな訳ないか…
5分ほど経って、絵本を手にした怜が部屋に戻ってきた。
「お待たせいたしました」
表紙に描かれた、懐かしいウサギのイラストに目を奪われる。
怜は私のベッドに寝そべることはせず、横にある椅子に座り絵本を読み始めた。
ウサギたちが集まって、大きなパンケーキを焼く話。
絵本の中いっぱいに描かれたパンケーキがすごく美味しそうで、怜とパンケーキが食べたいねってよく話してたっけ…
怜は優しく落ち着いた声で、私を心地よくさせる。
もう少し怜の声を聞いていたいのに、その気持ちとは反対に眠りの中に吸い込まれてしまう。
心地よい音が止み、意識が現実に戻っていく。
私の頭を優しく撫でる。
薄目を開けると怜が優しく微笑んでいた。
あの頃と同じ、私が1番好きな笑顔だった。