もっとドキドキさせて
翌朝、怜は昨日のことなんて何もなかったかのように、いつものように私を起こしに来た。
「お嬢様、朝でございます。学校のお支度を」
昨日とは違う、作り笑顔だ。
昨夜は胸がそわそわして、なかなか寝つけなかった。
気づいたら朝になっていて、眠った気がしない。
今日も怜と過ごす1日が始まる。
昨日みたいな、優しい怜の微笑みが見たい。
あっという間にお昼休みになった。
お昼休みは食事室に移り、そこでご飯を食べる。
自宅からデリバリーされた食事を食べている生徒や、お弁当を持ってくる生徒など、様々だ。
それぞれの執事が、それぞれのお嬢様のそばに付き食事の用意をする。
「お嬢様、お召し上がりください」
怜は慣れた手つきで食事の支度を済ませた。
「わー!可恋のご飯、おいしそう!」
真璃は私の前にあるお肉を見て、目を輝かせている。
私のお昼ご飯は、自宅から持ってきたお弁当。
お弁当箱の中には美味しそうなステーキが入っている。
真璃があまりにもお肉に興味を示しているから取り分けてあげようとすると、真璃の執事、テイラーさんが
「真璃お嬢様…可恋様のお食事ですので…」
と真璃を嗜めた。
テイラーさんはイギリス生まれイギリス育ちのイギリス人だ。
それなのに日本語が堪能。
生まれたときから真璃のお世話をしているらしく、長い付き合いらしい。
テイラーさんは洗練された雰囲気を身に纏っている。
真璃曰く、今年で65歳になるらしいが、相当若く見える。
「えー!あたしも明日はお肉がいいー」と言いながら不満げに頬を膨らませている真璃と、苦笑いをしながらも優しい眼差しを真璃に向けているテイラーさんの姿を見ていると、羨ましくなった。