※彼の姉ではありません
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そうしてこのカフェにやってきて、それぞれが注文して今に至る。
「前田さん」
幌延さんが背筋を伸ばしたかと思ったら、テーブルにつきそうなほど頭を下げてきた。
「私の依頼を、どうか受けていただけませんか」
「……とりあえず、頭を上げてください」
周囲の視線が痛い。カフェは混雑しはじめてるし、オープンスペースだから道を通る人たちの目もある。
なにより、幌延さん自身がこの状況に酔っているような感じがした。
「私たち、一旦まずは冷静になるべきじゃないですか」
頭を上げた幌延さんは、私の言葉に目を瞬かせた。あどけない表情がかわいらしくて、年上のお姉さんに好かれそうだなぁとのん気な感想を抱く。
幌延さんはきまりが悪そうに後ろ頭をかいた。私が言わんとしていることが伝わったらしい。
「そうですね、こんな荒唐無稽な話……あまりにも不躾でした」
幌延さんは「重ね重ね、申し訳ありません」とまた頭を下げた。すごく腰の低い人だ。
財閥の御曹司なら、もっと傲慢というか……偉そうな感じなのかと思ってた。幌延さんだけなのかもしれない。
「一晩だけ時間をもらえませんか? 冷静になればまた違う考えになるかも」