※彼の姉ではありません
そうだった、注文してたんだった。
私が慌てて手を挙げると、店員さんはテキパキとセットをテーブルに並べていく。
きつね色のトースト。レタスとミニトマトの彩り鮮やかなサラダ。カリカリに焼けたベーコン。黄金色したスクランブルエッグ。見てるだけで口から唾液が溢れそうなオレンジジュース。
バランスの良い食事の見本が、目と鼻の先でキラキラと輝いていた。
「……朝ご飯だ」
涙がこぼれ落ちそうになるのを、どうにかこらえる。
「どうぞ、お先に」
幌延さんは、先に食べてもいいと私に促してくれた。その優しさに、ますます涙腺が刺激されてしまった。
「本当に、ありがとうございます……いただきます」
私は幌延さんを拝むようにして手を合わせると、オレンジジュースをひと口分ゆっくり含んだ。
爽やかな酸味と、隠れた甘さに頬が痺れる。飲みこめば胃袋から全身に染みわたるような気がして、私は自分でもわからないほどお腹が減ってたんだと気づいた。
「ゆっくり召しあがってください」
その声に顔を上げると、慈愛に満ちた柔らかな瞳とかち合った。なんというか、あれだ。何日も食べてない犬猫を保護して世話をしてる人みたいな──。