※彼の姉ではありません

 妙なたとえが浮かび、ふり払うようにフォークでミニトマトを口まで運ぶ。

 一口、また一口と、しっかり味わって食べていれば、幌延さんのモーニングセットも運ばれてきた。視線をずらせば、コーンスープが湯気を立てているのが見えた。

 白いそれが、陽炎のように揺らめいては消えるのを目で追う。

 ──それにしても、こんなにのんびりと朝ご飯を食べたのはいつぶりだろう。

 通りを行ったり来たりする人たちの足音。

 車の走行音。

 カフェのインナースペースから聞こえる騒めき。

 時折り髪や頬をなでる風。

 ただ平穏なひと時が、そこにあった。


「前田さん、どうかしましたか?」


 幌延さんの言葉にハッと我に返る。具合でも悪いのかと、心配そうな顔つきになっていた。
 私は慌てて首を横に振る。


「違うんです、こんなふうにゆっくり朝ご飯食べたの、久しぶりだなって……」


 私は広告代理店の営業として、あちこち電話したり頭を下げたりした日々を脳裏に浮かべた。
 もし会社が潰れてなければとっくに出社して、クライアントに電話かメールしてるか、外回り営業に出ている。朝ご飯なんて栄養食品のゼリー飲料しかお腹に入れられない。
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