※彼の姉ではありません
……今までよく倒れなかったな、私。
私が過去の自分を冷静の分析していると、幌延さんが気遣わしげに眉間にシワを寄せていた。
「激務だったんですね」
「……そうですね、今思えばかなりブラックだった気がします」
「差し支えなければ、どのような業界だったか教えていただけませんか?」
「広告代理店です」
「ああ……広告は厳しいところが多いですからね」
なんなら、こんなふうに他人とおしゃべりするのも久しぶりだ。
プライベートな時間なんてほぼ無くて、休日出勤は当たり前。ひどいときは休みだったのに「クライアントが呼んでるから」と当日に休みがなくなったこともある。
当然、友だちと遊びに行くなんてできなくて、大学の友人たちとはもう疎遠になってしまった。
たまに同僚と飲み屋で愚痴るのが、唯一のリフレッシュできる時間だった。
幌延さんと話していると、そのときの空気とは違った話しやすさを感じてしまう。当時の上司とかクライアントのパワハラとかセクハラも話してしまいそう……。
「前田さんは、今日までがんばってこられたんですね」
「私だけじゃないです、会社のみんなでがんばってきたし、もっとキツかった人もいます」
「だとしても、前田さんの努力がなかったことにはならないでしょう」
ちょっと怒ったような声音に、私は「ありがとうございます、優しいんですね」とだけ返した。
幌延さんはかぶりをゆるゆると横に振って、口を開いた。
「前田さんは、もう少し自分に優しくするべきです」