※彼の姉ではありません
2.お祖母さんとの生活
契約成立
自分の短い呻き声で目を覚ました。
枕の横に置いていたスマートフォンを見れば、時刻は午前6時32分。約束の時間よりだいぶ前に起きてしまった。
まぁ寝過ごしてしまうよりはいいか。
私は起きあがって鍵を開け、ドミトリーからそっと出る。まだ眠ってる人も多いから、昨日以上に音を立てないようにしてフロントへと向かう。
そこでアメニティをもらって洗面所へ急いだ。いくら時間があるとはいえ、やらなきゃいけないことはメールだけじゃない。
会社の代わりにハローワークに申請して、離職票をもらわないと。公営住宅に入れるよう審査のための書類を用意しないと。
あれこれ考えながら鏡の前に立つ。自然と昨日の夢の名残りが襲ってきて、心臓が耳のすぐ下で鳴っているような感覚におちいった。
夢の中の彼女は、私にいったいなにを伝えたかったんだろう。
考えてもしょうがないことを考える。でも私の手は別の生きものみたく、歯ブラシをにぎって口の中に突っこむ。そのまま機械的に動かして、口をすすいだ。
顔も同じように洗う。ゲストハウスのロゴが印字されたタオルで拭くと、鏡で泡が残ってないか確認する。
そこに映るのは、まぎれもなく私の顔だ。
……疲れてるんだな、私。もっとしっかりしなきゃ。
あの夢は疲れが見せたのだろうと結論づけて、私は洗面所を後にした。