※彼の姉ではありません

 約束の時間ぴったりにメールすると、すぐに返信があった。


──ありがとうございます。私の意志も変わっていません。どうぞよろしくお願いします。


 うるさかった心臓があっけなく静かになり、安堵して読みすすめる。


──つきましては、契約書を作成したく存じますので、幌延シャングリラホテルまでお越しくださいますか。


 三ツ星ホテルの名前に気後れしてしまう気持ちを抑え、失礼にならないように注意して返信する。せっかくつかんだチャンスを失ってたまるか。

 それから何度かやりとりをして、会う時間は午後2時で決まり、フロントで名前を伝えればいいと最後のメールには記されていた。

 なんだか順調にいきすぎて怖い。そう考えていたら、服もろくに整えていないのに思いいたった。

 出社するときの服だったから、辛うじてスーツではある。あるけれど、三ツ星ホテルでは絶対に浮く。間違いなく浮いてしまう。こんなヨレヨレのシワシワ。

 ……でも買いにいく余裕もない。

 もう、ホテルに行ったらすぐフロントで名前を告げればいいか。

 恥ずかしいのは一瞬だけだと自分に言いきかせて、午前中にやるべき仕事に手をつけようと、ハローワークに向かった。
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