※彼の姉ではありません

「はい、では担当の石巻を向かわせますので、詳しい話はその日に……」


 幌延さんはパソコンを操作しながら、祖母と淀みなくしゃべっていた。私も会社に勤めていた頃は、ああやって顧客と話しながら別の作業をしてたっけ。

 思い出にひたる時間もそこそこに、幌延さんが電話を切ったのを見て背筋を伸ばした。


「診療所の支援はお任せください、ただ前田さんだけというわけにもいかなくて……あの地域一体をバックアップさせていただく形になります」

「そこまでしていただいて……本当にありがとうございます」


 幌延さんの提案はもっともだと思う。おばあちゃんの診療所みたいなとこは、数こそ少ないけどないわけじゃない。

 そこに、前田診療所だけどこからか支援を受けて経営難から脱した……と噂にでもなれば、周囲から不満や反発が出てくるのは簡単に予測できる。

 であれば、その地域の全てを支援してしまったほうがいい。平等に支援を受けられるとなれば、各々の気持ちはどうあれ表立って不満を言いだすところは出てこないだろう。

 私は座ったまま頭を下げた。あの幌延商事の支援なら、断ろうとするひねくれ者はいない。地元の医療現場も改善されるかもしれない。

 私は希望に胸がはずむのを感じた。

< 29 / 60 >

この作品をシェア

pagetop