※彼の姉ではありません
「他にご要望があればおっしゃってください、できる限りのことをさせていただきます」
幌延さんの言葉に、私は慌てて首を振った。これ以上なんて望んでいなかったし、もしあったとしても、望めば罰が当たりそうだ。
「ありがとうございます。ですが本当にもう十分ですので」
「いいんですか? 再就職先の紹介は……」
「お気持ちだけいただきます」
幌延さんに頼れば、きっと私の希望通りの会社に勤められるだろう。でもそれじゃダメだ。
私は、自分の力で再就職先に入りたい。
そう思うと同時に、幌延さんがお祖母さんをどれだけ大事にしているかがわかる。彼がここまでするほどの人だ、きっと優しくて、素晴らしい人なんだろう。
そんな人を、善意からとはいえ騙さないといけない。
「ただ、一つだけいいですか?」
「はい、なんでしょう?」
「お姉さんの、亜純さんに関することを全て教えてください」
それならば、徹底的にやろうと思う。
髪型やメイクはもちろん、本人さえ気づかないちょっとした癖や、表情の作り方、筆跡──ありとあらゆる“幌延亜純”をとことん真似して、彼女になりきってやる。