※彼の姉ではありません
「純之助は……貴女がいなくなったのを知って、すっごく怒って……」
「私、お父さんにずっと反抗的だったからね」
「あれは……トドメだったわ」
蝶子さんは遠い目をした。
亜純さんは自立心の強い人で、父親である純之助さんとよく衝突していたという。それを宥めるのは、蝶子さんの役目だった。
彼女が行方不明になった日の前日にも、派手なケンカをやらかして「もういい! 出ていけ!」「出てくわ! こんな家!」とやり合った──と幌延さんは蝶子さんから聞いた。
そして亜純さんは、「さようなら、私のことは探さないで」と書置きを残して消息を絶った。書置きは、蝶子さんが見つけて純之助さんに届けた。
純之助さんは「亜純はもう私の娘ではない!」と言いはっていたが、その裏で密かに彼女を探した。しかしそのかいもなく、亜純さんの手がかりは今日に至るまで全くないのだという。
「5年間もどこにいたの? 煙みたいに消えたって、皆して頭を抱えてたわ」
「海外にいたの。そっちなら“幌延”の娘だって言われたりしないし」
「……そうね、亜純は家の力じゃなくて、自分の力で勝負したいって、いつも言ってたものね」