※彼の姉ではありません

「もちろん、うどんの話だよ」


 私は“ご飯”とは言っていない。『あの甘くてしょっぱい感じが合うんだよねぇ』と言っただけだ。

 ……苦しいかな?


「やっぱりね……ごめんね、うどんがあればよかったんだけど……」


 バレはしなかった。だけど蝶子さんをしょんぼりさせてしまい、私は大慌てで顔の前で手を振った。


「ううん、ぜんっぜん! 私、ご飯だって好きだし!」

「いいのよ、気を遣ったりしないで」


 蝶子さんの周囲に音符でも見えるようだったのが、今度は陰が差してしまった。心なしか背中が丸まって小さくなったような……。

 私は落ちこんでしまった蝶子さんを慰めようと、さらに脳のシナプスをフルで稼働させてアイデアを絞りだそうとする。


「あ、ああそうだ! おばあちゃん、今度さ、一緒にハイキング行こうよ!」


 蝶子さんはアウトドア派で、よく旅行やハイキングに出かけていたと幌延さんは教えてくれた。それも5年前までだけど。

 だから……もし自分が蝶子さんだったら、きっと嬉しいんじゃないかと思った。

 ずっと生きているのか死んでいるのかもわからなかった孫娘が、元気な姿で帰ってきた。変わらず自分に懐いて、一緒に出かけようとしてくれる。

 気を遣われたと、また思われるかな……。
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