※彼の姉ではありません
「そうですね、祖母には悪いですが」
幌延さんはそう苦笑しながら、蝶子さんの背中を追いかける。スティックを操りながら山道をゆく蝶子さんはハツラツとしていて、ついこの間まで無気力無表情だったとはとても思えない。
それにしても元気すぎるなぁ……。
彼女の活力は、この自然からもエネルギーを受けた結果なのかもしれない。辺りを見回してふとそう感じた。
風に木の葉が揺らされる音。
紅葉や緑が対立せず交わった、見事なコントラスト。
時折り聞こえる鳥のさえずり。
軽くて澄みきった空気。
都会の喧騒から離れたこの場所は、現実と切離された異世界のようでもある。つまるところ、リフレッシュにはもってこいってやつだ。
かく言う私も今日という日を楽しみにしていたりする。演技を続けなければいけないとはいえ、緊張の連続では逆に怪しまれてしまう。
そう自分に言い訳をしながら、あちこちを眺めつつ目の補養をしていた。
リュックの重さも気にならないくらい、自然が作りあげた美しさに見とれて、大事な足下への注意がおろそかになっているのに気づけずに。
いきなり視界がブレた。
あっと思う間なく、数秒くらい奇妙な浮遊感があった。
──ぶつかる!
目を反射的にギュッとつむったときだった。