※彼の姉ではありません

 心臓がバクバクと脈打つ。まだ夢を見ているんじゃないかと疑ってしまう。
 でも、彼の手から伝わる熱は確かに本物だ。

 永遠にも感じる時間は、すぐに終わりを告げた。


「すみません、間違えました」


 急速に手足が冷えて、意識が遠くなるような気がした。耳の奥で、「なにを期待したの?」と私が嗤いながらささやく。「好きになってもらえるなんて、本気で思ったの?」

 母屋の奥のほうで気配がする。蝶子さんが起きてきたんだろう。


「……行きましょう」


 私はやっとそれだけ言った。声に不自然なところはなかった……と思う。かすかに震えていたような気もする。

 幌延さんの反応が怖くて、私は早足で母屋のキッチンへと足を運んだ。スリッパの柔らかな足ざわりに意識を向けながら、今日の朝食のメニューを無理やり考える。

 蝶子さんは和食が好きだし、今日は秋鮭にだし巻き卵、ひじきの煮ものなんてどうだろう。お味噌汁は油揚げか大根か。ご飯は白米か玄米か。

 私はダイニングテーブルにお行儀よく並べられたおかずを思いうかべる。想像するだけでお腹の辺りが騒ぎだしそうだ。

 無理にでも考えないと、思考の渦にのみ込まれてしまいそうだった。
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