※彼の姉ではありません

 蝶子さんと一緒に朝食の準備をしている間に、幌延さんはゴミ捨てに行って新聞を取ってきてくれた。こうした細々とした家事をしているのを見ると、とても御曹司には思えない。

 「私が好きでやっているんです」と、ちょっぴり得意げに胸を張っていたっけ。

 
「2人とも、今日は晩ご飯どうする?」


 3人そろって「いただきます」と手を合わせてから、蝶子さんが訊いてきた。


「今日はちょっと遅くなるから、晩ご飯いらない」

「私も遅くなるからいらない」


 幌延さんが答えるのに合わせ、私も予定を伝える。履歴書や職務経歴書の見直し、面接の練習、転職相談会の予約など、やるべきことは山のようにある。


「亜純もなの? 女の子が1人はちょっと不安だわ」

「俺が車で拾うから」


 幌延さんは「ね?」と目だけで訴えてくる。


「平気だよ、おばあちゃん」


 私は口角を不自然にならないくらい上げて、優しい口調を心がけた。

 ……ヤバいな。幌延さんだけじゃなくて、蝶子さんからも大事にされると胃の裏側がジクジクする。

 蝶子さんは、私を亜純さんだと思っているから。
 幌延さんは、私の見た目が亜純さんと瓜二つだから。

 だから大切にしてくれるにすぎないのに。

 そう考えてないとすぐ勘違いしそうで、私は涙がにじまないよう、テレビから流れるニュースに耳を傾けた。
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