※彼の姉ではありません
その電話がかかってきたのは、お昼になろうとしている時間帯だった。
私は転職説明会の会場付近のカフェで、ひと息ついていた。
『姉が見つかりました』
「本当ですか……?」
なにを訊いているんだろう。幌延さんがこんな笑えない冗談を言うはずがないのに。
『ええ。父が偶然、姉の写真を発見して……』
「写真?」
嫌な想像が頭の中を駆けめぐる。行方不明……写真……ブラックウェブ……人身売買……。
隣りの席で物音がして、思考は強制的に止められた。気を取りなおしてスマートフォンを持ちかえる。まだそんな状況になっていると決まったわけでもないのに、幌延さんたちに失礼だ。
『ホームページに写真が載っていたんです。インドで新しく興った会社のようで、つい2、3日前に公開されたものでした』
よかった。最悪の状況ではなかった。
でも謎が深まった。インド? 会社? なにがどうしてそうなって……?
『メールを送ります、そこのURLからとんでみてください』
電話はいったん切られ、数分も経たないうちにメールが送られてきた。そこに記載されていたアドレスをタップすると、すぐにそのホームページがでてきた。
英語で書かれたそのページは、どうやらアプリの開発をしている会社らしい。こういうときに英語をもうちょっとがんばっておけばよかったと思う。けど今はそれどころじゃない。
十数人くらいの、たぶん創立メンバーの集合写真が大きく飾られていた。そこに目を走らせれば──いた!
幌延さんに見せられた写真そのままの笑顔で、彼女は写っていた。