唇から始まる、恋の予感
「綾香からLINEだわ」

スマホからお知らせの音がなって、画面をみると、妹の綾香からのLINEだった。私のLINE登録は、母親、父親、妹の綾香、家族LINEの4件だけ。それもLINEを見る習慣がないから、スルーしてしまうことが多くて、よく妹に怒られる。

”お姉ちゃんの誕生日だけど、お母さんが、何を食べたいか聞けって”

「そうだった……自分の誕生日が近いことを忘れていたわ」

友達のいない私には、誕生日を祝ってくれるのは家族だけで、プレゼントは母親、父親、妹がそれぞれ用意してくれている。
どんな思いでプレゼントを選んでいるのか想像がつくから、プレゼントを開けた時は、家族の思いもそこから受けているような気分になる。
妹の綾香は3つ年下で、実家から通勤しているけど、最近の悩みは、家に入れるお金の値上げ要求を母親から受けていることらしい。

「お姉ちゃんみたいに頭が良くないから、地元で十分」

愛嬌のある笑顔で明るい妹は、地元の信用金庫で働いている。頭が悪いとしきりにいうけれど、銀行で働けるんだから十分優秀だと思う。同じ信用金庫の他支店に働く彼がいて、付き合いも長いからこのままいけば、結婚をするだろう。私みたいな姉がいて、妹には可哀そうな思いをさせてしまっている。突然結婚するといわれても困るから、早く整形をして、綺麗になっておかないと、妹が笑われてしまう。
顔を見られたくないからと言って、親族が結婚式に参加しないなんてわがままは、通るはずもない。

「今年はイチゴのケーキにしようかな」

去年はフルーツケーキにはまり、ズコットというほぼフルーツのケーキにしてもらった。
綾香とLINEをしていると、母親と父親からもLINEがきた。母親は料理のリクエストで父親はお酒はなにが飲みたいかと聞く。父親にこっそりとお酒が好きなんだと、告白したことを覚えているようだ。

「家族LINEがあるのに、おかしいの」

LINEから伝わる家族の愛情。これだけが私の信じるもので、疑う余地はない。年に一度訪れる私の小さな幸せの時間。

「有休を使って休もうかしら」

年度末で退職をすることを考えたら、有休の消化を急がなくてはだめだ。電子申請して、係長に伝えればいいだけなんだから大丈夫、言える。

「一週間休みをとって実家にいたら、旅行した気分にもなるかも」

夏とお正月、家族の誕生日だけ帰る実家は、いつも私を待ってくれている。今は何故か、寂しくて、一人でいるのが辛い。私は誰かの温もりが欲しいみたいだ。

< 100 / 134 >

この作品をシェア

pagetop